独立開業するにあたって、「個人での開業と法人設立とではどちらがよいか」というご質問をよく受けます。
法人の方が取引先との口座を開きやすいということをよく聞きますが、法人は、個人で事業を行うよりも、その設立・維持・清算にコストがかかりますので、特別の事情がない場合は、とりあえずは個人形態で開業し、一定規模になれば、法人設立を考えるというのも一案と思います。
税務上の取扱いについては、個人事業形態と法人形態とでは、次のような違いがあります。
1.家族従業員に支払う給与
経営者の家族に対して給与を支給する場合は、法人の方が税務上の制約が少ないです。
個人事業主の場合、事業主と「同じお財布で暮らしている(生計一という)者」に対する給与等の支払いは、原則、その事業主の「事業の経費とならない」からです。
事業主と生計一の親族に対する給与を、その事業の経費とするには、「事業専従者」としての一定の要件に該当することが求められます。
また、事業主が青色申告者の場合は、前もって所轄税務署に「青色事業専従者給与に関する届出書」の提出が必要となります。
2.自分に支払う給与
法人を設立した場合、法人と経営者は別人格になり、法人が経営者に給与を支払う形になります。
従って、経営者の所得区分は「給与所得」となり、給与所得の計算にあたっては、収入から「給与所得控除額(給与に対する経費とみなされるもの)」を控除できます。
これに対し、個人事業主の場合、事業主は自らに給与を支払うことはできず、収入から必要経費を差し引いた事業のもうけが「事業所得」となります。
事業所得には給与所得控除のような控除額はありませんので、同じ金額を給与収入で受取る場合と事業所得として受取る場合とでは、給与収入で受取る場合の方が、所得税額が少なくなります。
3.経営者等に対して支払う事業用資産の賃借料、借入金利息等
たとえば、法人が経営者またはその家族から不動産を賃借して事務所としている場合、この賃借料は法人の経費になります。
一方、経営者またはその家族は、その賃貸料収入・費用を不動産所得として申告する義務があります。
個人事業主の場合は、事業主または事業主と「生計一の親族」に支払う賃借料は必要経費になりません(事業主や生計一親族の収入としても取扱いません)。ただし、生計一の親族が所有する事業用の資産の保険料・公租公課・減価償却費等は、親族が負担したものであっても、その個人事業主の必要経費となります。
4.税率
法人には法人税がかかり、その税率は、次の表のとおり2段階の税率です。
個人事業主は、所得税率が適用され、その税率は5%から45%の7段階の累進課税税率となっております。
また、平成25 年分から平成49年分の所得税までの25年間は、復興特別所得税として所得税額の2.1%が上乗せされます。
平成30年4月1日 以後開始事業年度 |
平成31年4月1日 以降開始事業年度 |
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資本金1億円以下の 普通法人等 (中小 法人等) |
年間所得金額800 万円以下 | 15% | 15% (適用除外事業者(注)19%) |
年間所得金額800 万円超 | 23.2% | 23.2% | |
上記以外の普通法人 | 一 律 | 23.2% | 23.2% |
(注)適用除外事業者とは、直前3期の所得金額の平均額が15億円を超える法人等をいいます。
5. 決算期の選択
個人事業主は、暦年(1月から12月まで)単位の所得を翌年の3月15日までに確定申告することとされておりますが、法人の場合は、決算期日を任意に選べます。この場合、原則として事業年度終了日の翌日以後2 ヶ月以内が確定申告期限とされております。
6. 欠損金の繰越、交際費など その他
① 中小法人等の青色欠損金は9年間(平成29年4月1日以後に開始する事業年度において生ずる欠損金は10年間)繰越すことができますが、個人事業主の場合は、3年間の繰越しにとどまります。
中小法人等以外の法人については、欠損金の控除限度額が段階的に所得の65%から50%とされましたので、所得金額を上回る欠損金額があっても、法人税等の課税が生じることになります。
② 個人事業主の場合、事業の遂行上必要と認められる交際費は、全額必要経費となりますが、法人の場合、一定金額以上の交際費は、税務上の費用(損金)になりません※。
※税制改正により、平成26年4月1日以降に開始する各事業年度においては、中小法人の支出交際費は、年800 万円までは全額か、一定の接待飲食費の50%を、税務上の費用(損金)とすることができます。
③ 法人は、赤字の場合でも、地方税の均等割として、最低年7万円の税金(標準税率の場合)を負担することになります。